恋する存在  <5>



 ある日、翔太が部屋で着替えをしている時にアリサがドアをノックした。

「どうぞ。」
「翔太さん、聞いてください!・・あっ。」

 アリサはドアを開けて入ってこようとしたが、着替え中の翔太が上半身裸なのを見て、後ろを向いてしまった。

「着替え中なら、そう言ってください。」
「ああ、ごめん。すぐに着るから。」

 翔太はアリサのその反応を見て、少し恥ずかしくなってしまった。ロボットなんだから別に自分の裸を見られようが構わないと思ったけれど、本当の女の子みたいなリアクションをされると困ってしまう。

「はい、着たよ。それで何。」

 後ろを向いていたアリサは、恥ずかしそうに伏し目がちに振り向いた。アリサの顔色は変わらないはずだが、頬を赤くしているような気がした。

「はい。実は、当たったんです。」

 アリサは大きな箱を両手で大事そうに抱えていた。

「当たったって?」
「懸賞です。私、いろいろな懸賞に応募してたんですよ。」
「アリサ、そんなことしてたのか?」
「すいません。でも、懸賞ってドキドキして楽しいです。」

 目を輝かすという表現がピッタリくるような顔でアリサは翔太を見た。最近はアリサの表情がとても豊かになってきているような気がする。

「まあ、楽しいならこれからも懸賞続けなよ。それで、何が当たったんだ?」
「翔太さん、カニとかエビとか好きですよね?」
「うん、好きだけど。」
「良かった!産地直送の海鮮セットが当たったんです。」

 そう言ってアリサは箱を開けた。中にはカニ、伊勢エビ、ホタテなどの海の幸がぎっしりと入っていた。


 産地直送の魚介類は、その日の夜ご飯としてアリサが料理をしてくれた。
 料理はどれも、とても美味しかった。しかし魚介セットは量が多くて、とても一人では食べきれなかった。

「残った分は明日の朝にでも食べるよ。」

 翔太はそう言ったが、次の日でも食べきれるかどうかわからない量が残っていた。

「私も人間なら良かったです。なら、そのエビもカニもホタテも食べられるのに。・・私も人間になりたいなあ・・。」

 アリサは本当に残念そうに料理を眺めた。そんなアリサを見て、翔太は胸が痛くなった。限りなく人間に近いロボット、自分も本当の人間になりたいという願いを持って当然だ。

「なんて、そんなこと言われても困りますよね。」

 翔太の心を察したのか、アリサはあっさりとした口調で言った。そうしてアリサは食卓の上を片付け始めた。

「ま、人間なんてそんないいもんじゃないよ。」

 翔太は明るく言った。そんなことを言われたところでアリサになんの慰めにもならないとはわかっていたが。

「そうですか・・・。」
「ところで、どうしてアリサは料理だけは自分でするんだ?」

 翔太は話を変えるために、そんな質問をした。掃除ロボットに続いて洗濯もロボットに任せるようになったアリサは、今ではそれらのロボットの管理以外には料理くらいしかしなくなった。しかし料理は今でも自分で作りつづけている。

「料理は、好きなんですよ。」
「変なの。自分では食べられないのに。」
「・・でも、翔太さんが美味しそうに食べているのを見るだけで、私も嬉しい気持ちになりますから。」

 そう言ってアリサは笑った。


つづく

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